馬頭観音 (Bato Kannon (horse-headed Kannon))

馬頭観音(ばとうかんのん / めづかんのん)、サンスクリットハヤグリーヴァ (hayagriiva)は、仏教における信仰対象である菩薩の一尊。
観音菩薩の変化身(へんげしん)の一つであり、六観音の一尊にも数えられている。
観音としては珍しい忿怒の姿をとる。

三昧耶形は白馬頭、三角形の中の棍棒。
種子(種字)はカン(haM)。

解説

梵名のハヤグリーヴァ(音写:何耶掲梨婆)は「馬の首」の意である。
これはヒンドゥー教では最高神ヴィシュヌの異名でもあり、馬頭観音の成立におけるその影響が指摘されている。

他にも「馬頭観音菩薩」、「馬頭観世音菩薩」、「馬頭明王」などさまざまな呼称がある。
衆生の無智・煩悩を排除し、諸悪を毀壊する菩薩である。

転輪聖王の宝馬が四方に馳駆して、これを威伏するが如く、生死の大海を跋渉して四魔を催伏する大威勢力・大精進力を表す観音であり、無明の重き障りをまさに大食の馬の如く食らい尽くすという。
師子無畏観音ともいう。

他の観音が女性的で穏やかな表情で表わされるのに対し、馬頭観音のみは目尻を吊り上げ、怒髪天を衝き、牙を剥き出した忿怒(ふんぬ)相である。
このため、「馬頭明王」とも称し、菩薩部ではなく明王(みょうおう)部に分類されることもある。

また「馬頭」という名称から、民間信仰では馬の守護仏としても祀られる。
さらに、馬のみならずあらゆる畜生類を救う観音ともされ、六観音としては畜生道を化益する観音とされる。

像容は前述のような忿怒相で体色は赤、頭上に白馬頭を戴き、三面三目八臂(額に縦に一目を有する)とする像が多い。
経典によっては馬頭人身の像容も説かれるが、日本での造形例はほとんどない。
一面二臂、一面四臂、三面二臂、三面六臂、四面八臂の像容も存在する。
立像が多いが、坐像も散見される。
頭上に馬頭を戴き、胸前で馬の口を模した「馬頭印」という印相を示す。
剣、斧、棒などを持ち、また蓮華のつぼみを持つ例もある。
剣は八本の腕のある像に多い。

石川県・豊財院の木造立像、福井県・馬居寺(まごじ)の木造坐像は平安時代の後半にまで遡る作例である。
福岡・観世音寺の木造立像は高さ5メートルに及ぶ大作で、日本の馬頭観音像の代表例と言える。
京都・浄瑠璃寺の木造立像は、鎌倉時代の南都仏師らの手になる作例である。

馬頭観音像・石碑

また近世以降は、馬が急死した路傍や芝先(馬捨場)などに馬頭観音像を建てることが多くなった。
この場合、像ではなく単なる「馬頭観音」の文字を彫っただけの石碑であったりする。

なお、現代の日本においては競馬場の近くに祀られていて、レース中に亡くなった馬などの供養に用いられている場合もある。

[English Translation]