高野山真言宗 (Koyasan Shingon Sect)

高野山真言宗(こうやさんしんごんしゅう)は、平安時代初頭に弘法大師(空海)が入唐し、唐(中国)・長安(西安市)の青龍寺 (西安市)で恵果(けいか・えか)から密教を学び、日本に帰国後、開いた真言宗の一宗派。

総本山は高野山金剛峯寺。
別称として、高野宗・高野派。

寺号の金剛峯寺の金剛峯の名称は「金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祗経」(こんごうぶろうかくいっさいゆがゆぎきょう)の最初の3文字(金剛峯)を引用して、空海が名付けた。

平成18年(2006年)11月15日に高野山真言宗総本山金剛峯寺第412世座主に高野山補陀落院(ふだらくいん)住職の松長有慶大僧正が就任。

任期は4年。
座主職は、高野山真言宗の管長を兼ねる最高職。

沿革

高野山(和歌山県伊都郡高野町)は弘仁7年(816年)に嵯峨天皇より空海に下賜された。
それ以後、高野山内に伽藍・諸堂を整備して、修法と門弟の教育を行った。
1872年(明治5年)まで女人禁制であった。

1593年(文禄2年)に豊臣秀吉が母・大政所の追善菩提のために高野山に建立した青厳寺と1590年(天正18年)に木食応其が建立した興山寺を1869年(明治2年)に合併して、寺号を金剛峯寺とした。
青厳寺のとなりに興山寺があった。
青厳寺は、建立当初は寺号を剃髪寺と称していた。
興山寺は後陽成天皇より「興山寺」の勅額が下賜され、勅願寺であった。

合併以前は、寺号の金剛峯寺は高野山全体を指す名称であった。
現在のように特定の寺院を指して寺号とすることはなかった。
現在の金剛峯寺の建物は1863年(文久3年)に建立され、高野山真言宗座主の住居としても使用されている。

明治以降、政府の宗教政策から、他の真言宗宗派(真言宗御室派(総本山仁和寺)・真言宗大覚寺派(大本山大覚寺)など)と合同した古義真言宗に属し、古義真言宗総本山となる。
のちに分派・合同した。
大真言宗から1946年(昭和21年)高野山真言宗として独立、1952年(昭和27年)2月18日に宗教法人認証。

宗紋

五三桐
-豊臣秀吉拝領の青厳寺の寺紋。

三つ巴
-鎮守・丹生都比売神社(通称・天野神社)の定紋。

教義と信仰

教学(教義)から区分すれば、大日如来の本地説法身を説く高野山の教学(古義)を持つ古義真言宗諸派(真言宗御室派・真言宗大覚寺派など)の古義真言宗(古義派)に属して基幹をなす。

対して、13世紀末に古義真言宗から別れ、覚鑁(かくばん)(興教大師)を派祖とする。
大日如来の加持身説の教学(新義)を持った新義真言宗(新義派)があり、根来寺(新義真言宗総本山)(和歌山県)から分流した新義真言宗諸派(真言宗智山派・真言宗豊山派など)がある。

高野山真言宗檀信徒三信条

高野山真言宗では信仰のあり方について三信条というものをあげている。

高野山真言宗檀信徒三信条
一.大師の誓願により二世の信心を決定すべし
一.四恩十善の教えを奉じ人の人たる道を守るべし
一.因果必然の道理を信じ自他のいのちを生かすべし
弘法大師を宗祖とする。
高野山奥の院・弘法大師御廟を信仰の源泉とする。

信仰の対象としては、西塔・根本大塔には両部(金剛界・胎蔵界)大日如来を祀り、御影堂(みえどう)(弘法大師御住坊・現在は、真如様(しんにょよう)の弘法大師御影(絵像)を祀る)・不動堂などの伽藍・諸堂がある壇上があり、弘法大師入定の地・奥の院御廟は聖地。

宇宙すべてのものは大日如来の「いのち」の顕れであり、この「いのち」を表現したのが「曼荼羅」である。

根本仏を法身仏の大日如来、根本経典を「大日経」「金剛頂経」とする。

1984年(昭和59年)に菩提心の復活と即身成仏の教え(「いのち」の平等と尊厳をさとり、大日如来の智慧をこの世に実現する)を広め、この世に生きた仏国土をつくり、心豊かな社会の実現を目指して、テーマとし、標語「生かせ いのち」を提唱した。

また、弘法大師の共利衆生(きょうりしゅじょう)の精神に立ち、社会に貢献する「御宝号念誦運動」を宗団として取り組んでいる。
「御宝号」とは「南無大師遍照金剛」(なむだいしへんじょうこんごう)のことである。

僧籍・住職資格要件

1.得度
2.加行
3.受戒
4.灌頂
5.祖廟参籠 度牒授与・僧籍簿

住職資格・1~5に加えて、法流相承

住職以外に、副住職を置く寺院がある。

名誉住職

高野山真言宗の寺院住職に補任されて、20年を経るなど、高野山真言宗の定める要件を満たすと、名誉住職(めいよじゅうしょく)の称号が許される。

高野山真言宗では住職には任期がなく、終身制を採っていたが、高齢などの理由で住職を辞した場合、辞した住職は、厳密にいうと身分上、その住職が務めていた寺院の徒弟となる。
他の徒弟と同じ身分となる。
これは、住職を辞して後も引き続き寺院に居住して、後継の住職に対して指導・教育に当たるとき、身分上と言えども、寺院の徒弟(前住職)が住職に指導するということになってしまう。
そのため住職を辞しても身分を保障する配慮として、名誉住職という地位を設けた。
また、名誉住職を設けることで、住職の交代を容易にして人事を活発化させる目的もある。

住職と名誉住職の、寺院内での職務上の権利の差異はほとんどないが、名誉住職に関しては、高野山真言宗管長の被選挙権がなく、制限が設けられている。

僧階

僧階を昇階するためには高野山真言宗が定めた条件を満たさなければならない。

高野山奥の院御廟に参籠する・法会部による修法の試験に合格する・定まった年数以上僧階に留まるなど

布教師

布教師(高野山布教師・高野山詠歌布教師の2種)

教階一覧

教階(主教・弘教・示教・司教・補教)

僧階一覧

(級数・僧階・特遇称号・学階・教階)(資格認定・色衣) (称号が無い場合は無と記載する)
1級・大僧正・宿老・碩学・主教(緋))
緋色の折五条の着用を許される。

2級・権大僧正・宿老・碩学・主教(紫)
緋色の折五条(略式の袈裟の一種)の着用を許される。
権大僧正に昇階した記念として、総本山金剛峯寺より、緋色の折五条を贈呈(1回限り)される。

3級・中僧正・学頭・学匠・弘教(紫)
4級・権中僧正・学頭・学匠・弘教(紫)
5級・少僧正・無・都講・示教(紫)
6級・権少僧正・無・都講・示教(紫)
7級・大僧都・無・司講・司教(大学院卒)
8級・権大僧都・無・司講・司教(大学卒)
9級・中僧都・無・司講・司教(大学3)
10級・権中僧都・無・補講・補教(大学2年)
11級・少僧都・無・補講・無(大学1年)
12級・権少僧都・無・無・無(高校卒・専修学院卒)
13級・大律師・無・無・無(高校2年)
14級・律師・無・無・無(高校1年)
15級・権律師・無・無・無
16級・教師試補・無・無・無

寺格(順不同)

総本山 金剛峯寺(和歌山県高野町)

大本山 寳壽院(和歌山県高野町)

遺跡本山(ゆいせきほんざん) 神護寺(京都市右京区)、観心寺(大阪府)

別格本山
高野山内27寺 - (和歌山県高野町) (宝亀院、桜池院、天徳院 (高野町)、正智院、西禅院、明王院 (高野山)、龍光院 (高野町)、親王院、総持院、西室院、南院、金剛三昧院、龍泉院、光台院、福智院 (高野町)、本覚院 (高野町)、本王院、普門院 (高野町)、一乗院 (高野町)、普賢院、西門院、大円院、持明院 (高野町)、多聞院 (高野町)、三宝院 (高野町)、遍照光院、清浄心院、円通律寺
北海道・東北
-高福寺(福島県いわき市)
北越・関東
- 高崎観音(群馬県高崎市)、金剛院(八王子市)、那谷寺(石川県小松市)、不動寺(石川県津幡町)
東海
- 法多山尊永寺(静岡県袋井市),興正寺 (名古屋市)
近畿
安祥寺(京都市)(京都市山科区),常福寺(池田市),家原寺(堺市),矢田寺(大和郡山市),大安寺(奈良市),当麻寺(奈良県當麻町),おふさ観音(橿原市),慈尊院(和歌山県九度山町),興隆寺(神戸市),門戸厄神東光寺(西宮市),円満寺 (西宮市)(西宮市),千光寺(洲本市),瑠璃寺 (佐用町)(佐用町),温泉寺 (豊岡市)(豊岡市)
中国・四国・九州
木山寺(真庭市)、西大寺 (岡山市寺院)(岡山市)、極楽寺(廿日市市)、国分寺(下関市、防府市)、立江寺 (小松島市)(小松島市)、薬王寺 (美波町)(美波町)、鶴林寺 (勝浦町)(勝浦町)、三角寺(四国中央市)、南蔵院(福岡県篠栗町)、呑山観音寺(福岡県篠栗町)

準別格本山 高野寺(北海道函館市)、金峰寺(北海道旭川市)、西端寺(北海道釧路市)、歓喜院 (熊谷市)(埼玉県熊谷市)、法案寺(大阪市)、釈迦院(大阪市)、大乗坊(大阪市)、太融寺(大阪市)、盛松寺(大阪府)など
別院 - 1.直属別院、2.公共別院、3.特別別院の3種類がある。

直属別院 総本山の直接開設。
高野山東京別院(東京都港区 (東京都))、高野山堀川別院(京都市上京区)

公共別院 地方寺院の共同開設。
高野山讃岐別院(香川県高松市)、高野山福山別院(広島県福山市)

特別別院 特に認定を受けて開設。
高野山北海道別院隆光寺(札幌市中央区 (札幌市))、青龍寺 (青森市)(青森市)、高野山倉敷別院(岡山県倉敷市)、高野山吉備別院(倉敷市)、高野山今治別院(愛媛県今治市)

その他の別院 高野山アメリカ合衆国別院(ロサンゼルスリトルトーキョー)、高野山ハワイ別院(ハワイ・ホノルル)、高野山上海市別院(戦前、上海におかれていた)

一般寺院教会

毎日・毎月行事

毎日・奥の院 ・ 行法師2人常在・読経などを行う
毎日・伽藍(壇上伽藍) - 沙汰人2名、阿闍梨2名・5日交替
毎月(月並)・毎月16日 - 山王院問講
毎月(月並)・毎月19日 - 御影堂問講
毎月(月並)・毎月21日 - 御影堂・奥の院にて御影供

年中行事

奥の院修正会 - 1月1・2・3日
金堂修正会 - 1月1・2・3日
大塔修正会 - 1月5日
金剛峯寺新年祈祷会 - 1月5日
御修法遥拝会 - 1月11日
阪神淡路大震災物故者追悼法会 - 1月17日
大塔節分祈祷会 - 2月3日
金剛峯寺常楽会 - 2月14日・15日
法印転衣式 - 3月10日前後吉日
春季金堂彼岸会 - 春季彼岸中日と春季彼岸中日前後2日を加えて3日間
奥の院正御影供(新暦) - 3月21日
金剛峯寺仏生会 - 4月8日
金堂庭儀大曼荼羅供 - 4月10日
伽藍萬燈萬華会(旧暦) - 3月20日
旧正御影供御逮夜(旧暦) - 3月20日
旧正御影供(旧暦) - 3月21日
御影堂旧正御影供(旧暦) - 3月21日
奥の院萬燈会 - 4月21日
金堂胎蔵界結縁灌頂 - 5月3・4・5日
奥の院大施餓鬼会 - 5月21日
山王院夏季祈(旧暦) - 5月1・2日
山王院堅精(旧暦) - 5月3日
弘法大師降誕会 - 6月15日
高野山青葉祭り - 6月15日
准胝堂陀羅尼会 - 7月1日
金剛峯寺内談義(旧暦) - 6月9・10日
山王院御最勝講(旧暦) - 6月10・11日
金堂不断経 - 8月7日より1週間
大塔御国忌 - 7月16日
金剛峯寺盂蘭盆会 - 8月11日
奥の院萬燈供養会 - 8月13日
関東大震災物故者追悼法会 - 9月1日
勧学会 - 9月中
傳燈國師忌 - 9月11日
秋季金堂彼岸会 - 秋季彼岸中日と秋季彼岸中日前後2日を加えて3日間
金堂土砂加持 - 秋季彼岸中日
奥の院萬燈会 - 10月1・2・3日
金堂金剛界結縁灌頂 - 10月1・2・3日
明神奉送迎(旧暦) - 9月3日
諡號奉讃会 - 10月27日
高野山御社御幣納め - 12月31日

臨時行事

高野山開創記念大法会 - 50年ごとに行う
宗祖弘法大師御降誕記念大法会 - 50年ごとに行う
宗祖弘法大師御入定御遠忌大法会 - 50年ごとに行う

宗務組織

管長(金剛峯寺座主) - 任期4年・推戴制
責任役員 - 7名
宗務所 - 金剛峯寺内に設置
宗務出張所 - 別院
地方宗務組織(日本国内に8地区に分け、53支所を設置) - 全国寺院教会(約4000ヶ寺) - 代表役員住職 - 責任役員
宗務支所 -支所長・任期3年 各宗務支所下の寺院住職による輪番制。
支所長を務める住職の自坊が宗務支所となる。

通常は一度、支所長に就任すると再任されることは、ほとんど無い。
しかし、本人の希望で再任されることがある。
再任には支所下の寺院の同意が必要となる。

また、支所ごとに代議員・副長などを置いて、支所下の寺院住職・寺族がその役職に就く。
支所に置かれる役職は、各支所ごとに概(おおむ)ね差異は無いが、支所の状況に応じて、独自の役職を設けることがある。

宗務支所一覧

北海道宗務支所
福島宗務支所
栃木宗務支所
群馬宗務支所
山梨宗務支所
埼玉宗務支所
東京宗務支所
神奈川宗務支所
相模宗務支所
富山宗務支所
愛知宗務支所
濃飛宗務支所
三重宗務支所
福井宗務支所
富山宗務支所
石川宗務支所
丹後宗務支所
丹波宗務支所
京都宗務支所
大阪宗務支所
和泉宗務支所
河内宗務支所
奈良宗務支所
内吉野宗務支所
和歌山宗務支所
但馬宗務支所
兵庫宗務支所
播磨宗務支所
徳島宗務支所
阿波宗務支所
香川宗務支所
高知宗務支所
愛媛宗務支所
美作宗務支所
備中宗務支所
備前宗務支所
広島宗務支所
鳥取宗務支所
島根宗務支所
山口宗務支所
五島宗務支所
福岡宗務支所
熊本宗務支所
大分宗務支所
宮崎宗務支所
高野山真言宗宗会(しゅうかい、略称・宗会)
春期・秋期に開会
構成・金剛峯寺耆宿10名
地方区被選挙議員(宗会議員)(任期4年・27名)
内局
宗務総長 (内局を統括・選挙制・任期3年・金剛峯寺執行長を兼ねる)
総長公室(総長公室長を置く)
総務部 - 総務課・労務厚生課・災害対策課・企画室・社会人権局 - 社会課・人権課(社会人権局長を置く)
教学部 - 教化課・教宣課・教学課
財務部 - 会計課・工務課・調度課
法会部 - 法会課・信徒課
山林部 - 山林課
(各部に部長を置く、各金剛峯寺執行を兼ねる)
内事(管長の秘書的な役割を担う。
内事長を置く)

伽藍(責任者として維那を置く)
奥の院(責任者として維那を置く)
海外
北米・南アメリカ・ハワイ・カナダに開教区
高野山米国別院(北米開教総監部・ロサンゼルス)
タイ王国・バンコク(開教僧堂)
高野山大師教会本部 - 大師教会支部
宗機顧問会
制度調査会
審査委員会
寺族婦人会
密教婦人会

関連機関・組織

高野山霊宝館
高野山壇信徒協議会 - 高野山枢議会
高野山枢議会
高野山弘法大師奉賛会 - 1984年設立
高野山真言宗参与会
高野山寺領森林組合
華道高野山総司庁(総裁・高野山真言宗管長) - 華道課
写経奉納総司所
高野山金剛流 - 御詠歌の組織・金剛講総本部を大師教会本部に設置
高野山宗教舞踊会総司所
財団法人高野山文化財保存会
財団法人高野山勧学財団
高野山競書大会
国際交流センター

教育機関

学校法人高野山学園
高野山幼稚園
高野山高等学校
高野山大学
高野山専修学院 - 大本山寶壽院
高野山事相講伝所 - 真別処 円通律寺
高野山尼僧学院

[English Translation]